【衝撃】NHK朝ドラ『ばけばけ』が描く「月20円の女中」の額を現代の物価で換算してみた

「たったの20円？」「いや、当時の20円はとんでもない金額だった！」

現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。没落した士族の娘トキ（主人公）が、外国人教師ヘブン（レフカダ・ハーン）の女中として働くことを決意するシーンは、物語の大きな節目となりました。

注目すべきは、トキに提示された月給「20円」。現代の感覚ではピンと来ないこの金額ですが、明治時代の日本では、この20円が一人の女性の人生を劇的に変えるほどの価値を持っていました。

この記事では、当時の物価や給与水準と比較し、この「月20円」が現代の日本円でいくらに相当するのかを徹底的に換算。さらに、なぜヘブンは破格の給料を払ったのかという背景にある深い理由まで解説します。この衝撃の事実を知れば、『ばけばけ』が何倍も面白くなること間違いなしです！

はじめに：なぜ「月20円」は破格なのか？
【徹底換算】「20円」は現代でいくら？驚愕の換算額を解説！
なぜヘブンは「20円」という高給を払ったのか？
トキの「20円」がもたらしたもの
まとめ：単なる金銭ではない「20円」の重み

はじめに：なぜ「月20円」は破格なのか？

朝ドラ『ばけばけ』の物語の大きな転換点となったのが、ヒロイン・トキが外国人教師ヘブン（レフカダ・ハーン）の元で「女中」として働くことを決意した場面です。

当時、物乞いに落ちた実母チエの姿を目の当たりにし、没落した実家を支えるため、トキは世間から「ラシャメン（露西亜（ロシア）の女）」と呼ばれ、蔑視される覚悟でこの道を選びます。明治の初期、外国人居留地で働く日本人女性は、往々にして売春婦（からゆきさん）や、それに近い存在と見なされ、そのレッテルを貼られることは、武家の娘として育ったトキにとって、計り知れない屈辱でした。

しかし、その仕事に対して提示された給金は、当時の常識をはるかに超える「月20円」。この「月20円」というキーワードは、現代を生きる私たちには想像もつかないほどの価値を持っていました。この破格の報酬こそが、トキが世間の目を断ち切ってまでこの仕事に就く、唯一にして最大の理由となったのです。

本記事では、この衝撃的な給金を現代の物価に換算し、トキの決断の重み、そして当時の女性の経済的な自立というテーマを読み解きます。

【徹底換算】「20円」は現代でいくら？驚愕の換算額を解説！

結論から言うと、明治時代中頃の「月20円」は、現代の価値で約40万円〜60万円前後に相当すると考えられます。この「月20円」という数字が、現代の私たちが思う以上に、当時の社会で飛び抜けた額だったということがわかります。

この金額が当時いかに驚異的だったか、当時の物価と給与を基準に比較していきましょう。

物価の基準で見る「20円」：生活必需品から見た価値の深掘り 当時の物価を見ると、そば1杯やあんぱん1個が約1銭（0.01円）でした。つまり、1円あれば約100個のあんぱんが買えた時代です。トキの月給20円は、実にあんぱん2,000個分に相当します。また、当時の白米10kgは約0.665円。現代の米価（約4,500円/10kg）を基準に米価換算すると、1円は約6,700円となり、20円は約13万4千円という比較的控えめな額になります。しかし、ここで重要なのは「米」です。米は生活の基盤であり、給与換算の基準としては低く出がちです。次に示すように、当時の人件費（給与）で比較すると、20円の価値は一気に跳ね上がります。
給与の基準で見る「20円」：現代の月収40〜60万円に相当！ この破格の金額を、当時の一般的な給料と比較するとさらに衝撃的です。当時の女性の平均的な月給を考えてみましょう。
- 一般的な女性労働者（平均月給3〜5円）と比較：明治時代の紡績女工や工場で働く女性の月給は、わずか3円〜5円程度でした。
- 当時の非正規教師（月給4円）と比較：トキの給金は、友人のサワが就いた非正規教師の月給4円の、実に5倍にあたります。
- 公務員初任給（約8～15円）と比較：高卒の教師や警察官の初任給が約8円〜15円だった時代に、20円は初任給の約2倍以上という高水準です。これは、公的な職業に就く男性ですら、到達が困難な金額でした。
結論：トキの月給は、当時のサラリーマンの管理職クラスだった 現代の初任給を約20万円と仮定すれば、2倍の40万円、さらには当時の社会的な立場や稀少性を考慮すると60万円近い価値があったとも言えます。トキが受け取った20円は、現代でいえば40〜50代前半の管理職クラスの月給水準に匹敵する、まさに桁外れの高収入だったのです。この額は、女性がほとんど経済力を持てなかった時代において、「女性による経済的な自立」を現実のものとする、大きな力を持っていたのです。

なぜヘブンは「20円」という高給を払ったのか？

当時の相場をはるかに超える20円という金額には、外国人教師ヘブン（レフカダ・ハーン）の特別な意図が込められていました。単なる女中の給与としては高すぎるこの金額の裏には、ヘブンの個人的な動機と文化的な関心が隠されています。

単なる家政婦ではない：ヘブン（小泉八雲）の真の目的 ヘブンは単に家事をする「家政婦」を求めていたわけではありません。彼が日本に来た本来の目的は、日本の文化や風俗を深く理解し、それを執筆活動（滞在記）に活かすことでした。彼は、日本を西洋とは異なる精神文化を持つ神秘的な国と捉えており、特に没落しつつある日本の「侍文化」や武士の精神に強い憧れを抱いていました。士族の娘であるトキを雇うことで、彼はその文化の深部に触れたいという強い欲求があったのです。
武家の娘・トキへの「敬意」と「投資」 ヘブンの月給は教師として約100円（現代で200万〜300万円）と高額でしたが、当時の旅館の滞在費が月10円弱だったことを考えると、女中への20円という支払いは、通常の倍以上の経費負担でした。したがって、この20円は、トキの労働対価としてだけでなく、「日本の文化を知るための知的投資」であり、没落したとはいえ武家の娘であるトキに対する「敬意」の表明でもあったと考えられます。彼は、トキから得られる文化的な情報や物語が、自身の創作活動において20円以上の価値を持つことを見抜いていたのです。
史実との比較：モデル小泉セツの給金は「15円」だった？ 「ばけばけ」のモデルとなった小泉セツさんがハーンの女中として働いた際の史実の給金は「15円」だったと言われています。小説『ヘルンとセツ』には、セツさんが月給15円の中から毎月10円を借金返済に充てていた描写があります。ドラマが史実よりも高い「20円」に設定し、さらに三之丞に10円を渡す印象的なシーンを描いたのは、トキ自身に、その仕事が「自己犠牲を払うほどの価値がある」と視聴者に強く納得させるためのドラマ的な演出だったと考察できます。高額な給金は、トキの決意の固さと、家族を救うための切実さを際立たせる効果を果たしています。

トキの「20円」がもたらしたもの

この高額な給金は、トキの人生に計り知れない影響を与え、物語の核心を形作っていきます。

実家の借金返済と家族を背負うトキの「覚悟」 トキは、受け取った給金のほとんどを家族の借金返済に充てました。20円という高給は、彼女が背負った実家への責任と、「ラシャメン」という蔑称を受け入れてまで家族を守ろうとした自己犠牲的な「覚悟」の象徴でもあります。この経済力がなければ、一家は窮乏し、トキは望まない道を進むしかなかったかもしれません。20円は、トキが自ら人生を選択する自由を獲得するための「武器」だったと言えます。
高給がもたらす周囲の反応と、トキの未来 破格の給金は、トキを軽蔑する人々がいる一方で、トキの生活が一変することを意味しました。この高給は、トキが経済的に自立し、新しい世界と出会うための確固たる基盤となりました。特に、当時の女性の地位を考えれば、これほど安定した高収入は極めて異例であり、トキに社会的な発言力と選択肢を与えました。
20円以上の価値：やがて生涯のパートナーへ ヘブンとの主従関係は、単なる金銭のやり取りを超え、異文化理解と愛情を育む場となっていきました。ヘブンはトキの語る日本の怪談（ゴーストストーリー）に深い影響を受け、これが後の有名な著作群のインスピレーションの源となります。トキがヘブンにもたらした日本の精神世界と、ヘブンが提供した経済的な安定と新しい世界は、やがて二人が身分や文化を超えて結婚し、生涯のパートナーとなるきっかけを作ったのです。20円は、一人の女性の人生の「転機」を買い取った金額であり、そこから生まれた文化的な果実は、計り知れないものとなりました。