「衆議院選挙(総選挙)」のニュースを見ていると、「小選挙区」や「比例代表」、さらには「復活当選」といった難しい言葉がたくさん出てきます。
「結局、自分の票はどう扱われるの?」「落選したはずの人がなぜ当選しているの?」と疑問に様子の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、衆議院選挙の仕組みを初心者の方でもわかるように、かみ砕いて解説します。
衆議院選挙は、私たちの代表となる国会議員を選ぶ非常に重要なイベントです。日本の衆議院選挙では「小選挙区比例代表並立制」という, 性格の異なる2つの仕組みを同時に運用しています。
衆議院の定数は465議席と厳格に決められています。この限られた議席を、以下の2つの異なる土俵で奪い合う形になります。
小選挙区:289議席 日本全国を289のエリアに分割し、それぞれの地域から「その街の代表」を1人ずつ選出します。
比例代表:176議席 全国11のブロックごとに、政党の得票数に応じて議席を割り振ります。こちらは「政党の支持率」を議席に反映させる枠組みです。
投票所に行くと、受付で2枚の投票用紙を渡されます。それぞれ書き方が異なるため、注意が必要です。
ピンク色の用紙(小選挙区投票) 自分の住んでいる選挙区から立候補している「候補者の個人名」を書きます。この一票は、直接その人を国会へ送り出すための力になります。
白色の用紙(比例代表投票) 個人名ではなく、支持する「政党の名前」を書きます。特定の候補者が決まっていなくても、「この党の政策を応援したい」という意思を示すことができます。
このように、私たちは「人」と「党」という2つの観点から、日本の未来を託す相手を選ぶことができるのです。
なぜ、わざわざ手間をかけて2回も投票するのでしょうか。それは、単一の制度だけではこぼれ落ちてしまう「民意」を救うためです。
小選挙区の役割:1つの区から1人を選ぶため、多数派の意見が反映されやすく、政権を担う大きな党が生まれやすくなります。これにより、政治が安定しやすくなるというメリットがあります。
比例代表の役割:小選挙区で1位になれなかった候補者を支持した人たちの票(死票)を、政党への得票としてカウントし、議席として形にします。これにより、少数意見や多様な価値観も国会に届きやすくなります。
この2つを「並立」させることで、リーダーシップの強さと、国民の多様な声の反映という、一見矛盾する2つのバランスを保っているのです。
小選挙区制は、衆議院の議席の約6割(289議席)を占める、日本の選挙制度のメインエンジンです。
小選挙区制では、日本全国の地図を人口バランスに基づいて289の細かいエリア(選挙区)に区切ります。それぞれの選挙区から国会へ送り出されるのは、最も多くの票を獲得した「たった1人」だけです。
この仕組みにより、候補者は「自分の地元の代表」という意識が非常に強くなります。有権者にとっても、「自分の街からはこの人が代表として国会へ行く」という関係が明確で、候補者の顔が見えやすいという特徴があります。
ルールは非常にシンプルで、1位の候補者が1票でも多く取れば当選が決まります。しかし、この「勝者独り占め」のルールには、大きな代償も存在します。
例えば、ある選挙区で以下のような得票結果になったとしましょう。
A候補(当選):40,000票
B候補:35,000票
C候補:25,000票
この場合、当選する A候補の4万票は活かされますが、B候補とC候補に投じられた合計6万票は、誰の当選にも結びつかず切り捨てられてしまいます。これを「死票(しひょう)」と呼び、結果として「当選者よりも、落選者に投じられた票の合計の方が多い」という逆転現象が起こることもあります。そのため、民意が正確に反映されていないのではないかという批判を受けることがあります。
小選挙区制は、組織力や知名度のある「大きな政党」に圧倒的に有利に働きます。同じ考えを持つ人が乱立すると票が割れて共倒れしてしまうため、自ずと巨大な勢力同士の対決に集約されやすいからです。
一方で、この仕組みは「政治の大きな転換」を生み出す力も持っています。少しの支持率の変動が、全国の多くの選挙区で「1位の交代」を引き起こし、議席数が一気に激変することがあります。過去の歴史を振り返っても、政権交代が起きた際は、この小選挙区での大勝が原動力となりました。
つまり、小選挙区制は「安定した政権基盤を作る力」と「ダイナミックな政治変化を生む力」を併せ持った、非常に刺激的なシステムなのです。
比例代表制は、小選挙区の「1位総取り」の結果、議会からこぼれ落ちてしまいがちな少数意見を拾い上げ、国会に反映させるためのマイルドなシステムです。
比例代表選は、日本全国を11の大きな地域(ブロック)に分けて行われます。 (例:北海道、東北、北関東、南関東、東京、北陸信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)
この仕組みの最大の特徴は、議席が各政党の得票「率」に応じて分配される点にあります。小選挙区ではどれほど支持があっても1位になれなかった空間は議席はゼロですが、比例代表ではブロック全体で一定の支持(例えば10%など)を集めれば、着実に議席を獲得できます。これにより、特定の分野に強い主張を持つ小さな政党や、新しい勢力でも国会に代表を送り出すチャンスが生まれます。
議席の計算には「ドント式」という独特なルールが使われます。これは、各政党の得票数を「1, 2, 3…」と整数で割っていき、その計算結果(商)が大きい順に議席を割り当てる方法です。
例えば、定数3のブロックでA党が600票、B党が400票獲得した場合:
A党:600÷1=600, 600÷2=300, 600÷3=200
B党:400÷1=400, 400÷2=200, 400÷3=133 → 上位3つ(600, 400, 300)を選び、A党が2議席、B党が1議席となります。
各政党はあらかじめ、誰を当選させるかの優先順位を記した「比例名簿」を提出しています。政党が獲得した議席数に応じて、名簿の上位者から順に当選が決まる仕組みです。
比例代表の投票で最も注意すべき点は、投票用紙に「政党名」を記入することです。 小選挙区と同じように候補者の個人名を書いてしまうと、どの政党への一票か判別できず、「無効票」になってしまう恐れがあります。
このシステムは、候補者個人の人気だけでなく、その政党が掲げる「政策」や「理念」に対して国民が審判を下すという、非常に重要な意味を持っています。小選挙区で特定の候補者を応援しつつ、比例代表では別の党の政策を支持する、といった「賢い使い分け」ができるのもこの制度の醍醐味です。
選挙特番などで「小選挙区で落選しましたが、比例ブロックでの復活当選が確実となりました!」というアナウンスを耳にすることがあります。有権者からすれば、「負けたはずなのになぜ国会議員になれるの?」と不思議に感じるこの現象には、衆議院特有のルールが深く関わっています。
衆議院選挙において、多くの候補者は「小選挙区」と「比例代表」の両方に名前を連ねています。これを**「重複立候補」**と呼びます。 この仕組みにより、候補者には二段階のチャンスが与えられます。
第一段階:まず小選挙区での「個人としての勝負」が決まります。ここで1位になれれば、即当選です。
第二段階:もし小選挙区で負けてしまった場合、次は比例代表の名簿に基づいた「政党としての勝負」に回ります。ここで自分の所属する政党が議席を獲得し、かつ名簿上の順位が高ければ、晴れて当選となります。
いわば、小選挙区が「表門」なら、比例代表は「裏門」のような役割を果たしており、一度負けても国会へ進む道が閉ざされないようになっています。
ここで重要になるのが、「名簿の順位」です。多くの政党は、小選挙区に重複立候補している複数のメンバーを比例名簿の「同率1位」に設定します。同順位の候補者が複数いる中で、誰が優先的に復活当選するかを決める指標が「惜敗率」です。
惜敗率(%)=(自分の得票数 ÷ 自選挙区で当選した人の得票数)× 100
例えば、A選挙区の候補者が1位にあと一歩の95%の票を得て落選し、B選挙区の候補者が1位の半分(50%)の票しか得られずに落選した場合、Aさんの方が「より惜しかった(支持が厚かった)」と判断され、優先的に復活します。 「負け方」にも価値を持たせることで、僅差で敗れた優秀な人材や、多くの支持を集めた候補者を救い出す仕組みなのです。
小選挙区で有権者の審判によって「落選」の烙印を押された候補者が、比例代表で救われる様子を見て、一部では「ゾンビ議員」と揶揄されることもあります。「地元で否定されたのになぜ?」という感情的な不満がその背景にあります。
しかし、この制度には非常に重要な政治的意義があります。
死票の救済:小選挙区で49%の票を得て敗れた候補者の後ろには、膨大な数の支持者がいます。復活当選を認めることで、その49%の有権者の声を国政に反映させることが可能になります。
人材の確保:政党にとって、重要な政策を担う専門家やベテラン議員が、たまたまその選挙区の激戦で落選したからといって、国会から消えてしまうのは大きな損失です。安定した国政運営のために、必要な人材を確保する安全装置としても機能しています。
一見すると不条理に思える「復活」ですが、多様な意見を切り捨てないための、知恵の詰まったシステムであると言えるでしょう。
立候補すれば誰でも比例代表で復活できるわけではありません。日本の選挙制度には、候補者の質を担保し、売名目的の立候補を抑制するための厳しい「足切り」の仕組みが存在します。
重複立候補者が比例代表で復活当選を果たすためには、前提条件として小選挙区での得票数が有効投票総数の10分の1(10%)に達していなければなりません。
例えば、ある選挙区で有効投票の合計が20万票だった場合、最低でも2万票を獲得していなければ、たとえ比例名簿の1位に名前があっても、その瞬間に当選資格を失います。このルールがあるため、党の勢いだけで当選することは難しく、候補者個人としても一定以上の地域支持を得ることが強く求められます。
日本の選挙には「供託金(きょうたくきん)」という制度があります。立候補時に国へ預けるお金のことですが、衆議院選挙の場合、その額は非常に高額です。
小選挙区のみ:300万円
重複立候補:合計600万円(小選挙区300万 + 比例300万)
もし前述の「10%の壁」を超えられなかった場合、この300万円(重複立候補なら600万円)は全額没収され、国庫に入ります。これは世界的に見ても非常に厳しいルールであり、候補者や政党にとっては経済的な「命綱」とも言える非常にシビアなラインなのです。
非常に稀なケースですが、ある政党が国民から予想をはるかに上回る圧倒的な支持を得た結果、「比例名簿に載せている候補者の数よりも、獲得した議席数の方が多くなってしまう」という事態が起こることがあります。また、復活当選を目指していた重複立候補者が全員「10%の壁」で脱落してしまい、当選させる人がいなくなるケースも含まれます。
この場合、その余った議席はどうなるのでしょうか? ルール上は、その議席は「他党」に振り分けられます。 議席の計算(ドント式)をやり直し、次に高い商を持つ政党にその議席が譲渡されるのです。これは、その政党を支持して投じられた票が、結果的にライバル政党の議席を増やすことにつながるという、皮肉な結末を生むこともあります。
衆議院選挙は、私たちの意思を反映させるために非常に工夫された仕組みになっています。
小選挙区:地域の代表、転じて政権を選ぶ「力強い一票」
比例代表:多様な意見を議会に届ける「マイルドな一票」
復活当選:惜しくも敗れた人の支持を拾い上げる「救済の仕組み」
仕組みを理解すると、選挙特番やニュースがぐっと面白くなるはずです。私たちの未来を決める大切な一票。その重みを感じながら、ぜひ投票所に足を運んでみてください。